宿泊税のたくらみを斬る
宿泊税のたくらみを斬る
(このコラム掲載後、宿泊税導入自治体の税額に若干の不正確な部分があること、また宿泊事業者の数についても正確に記した方が良いことなどの指摘がありました。その部分を加筆・修正しました。2020/02/18)
昨年の11月頃より、宿泊税と県美術館の移転問題が県政の大問題に急浮上しました。なぜこの時期なのかについては、いろいろうがった見方はありますが、10月27日が県議選の投票日でしたから、そこで村井知事与党会派がこれらの問題について、争点にされるのを避けた、「踏み絵」をふまされるのを、知事サイドが意識して避けたと思われます。
県議選後の異常な動き…宿泊税へ猛ダッシュ
実際、観光振興財源検討会議が宿泊税を持ち出すのが、10月30日の第7回会議です。ここで財源確保のあり方について、関係団体から意見を聞くことが決まり、本当に猛ダッシュで動きだします。11月1日から18日まで、19関係団体から意見聴取しました。そのうち宿泊事業者は7者ですから、旅館・ホテル関係が757者、宿泊事業者全体で1054者(令和元年の旅館業法許可施設数)の、ほんの一握りから意見聴取しただけです。
そして11月20日には、「主な意見」が列挙された報告書がつくられ、宿泊税導入のとりまとめ案が第8回会議で決められました。この時の「報告書」は本当にひどいもので、宿泊税についての積極的賛成意見を最初に列挙し、次ページに反対意見を列挙、そして最後に「反対があるだろうがやむをえない」などとする消極的賛成意見を列挙し、あたかも宿泊税については全体として賛成意見を得たかのように細工がされています。非常にずる賢いやり方です。
さらに、12月6日から1月6日までパブコメが実施されます。通常は、パブリックコメントをもとに、さまざまな修正などが加えられ、意見を一応聞いた体裁をとりますが、今回は恐るべきことに、1月10日に第9回の検討会議が開かれ、そこには1028人から1302件の意見が寄せられたことが報告はされましたが、個々の意見は30項目に分類され、どんな意見が多かったのかもわからず、答申が決定されます。こんな無茶苦茶はありません。県民に意見を聞いたというポーズさえとれば、何をやっても良いのか、あまりにもひどすぎます。
そして、この答申が出たからとして、村井知事は2月県議会に導入条例を出すことを決めました。たしかに県民説明会が1月25日(土)、26日(日)と県内7会場で行われましたが、すべての会場で反対意見が続出し、知事も参加した1月31日(金)開催の宿泊事業者向け説明会でも、知事自身が「厳しい意見が相次いだ」と語るように、賛成意見はひとつもありませんでした。
こうした経過を見れば、議案として県議会にかける基本的要件を満たしていません。日本共産党県議団に宿泊税の説明があった際(2月5日)に、パブコメの扱いについて質問が出ました。県執行部の回答は、はじめ「情報公開の仕様にもとづき、上工下水一体官民連携事業の時に出た意見に回答した体裁で作業したいと考えている。3月末くらいまでには出したい」とのことでした。党県議団から、それでは議論する要件を満たしていないこと、パブコメという形で寄せられた県民意見の扱いが条例可決の後になるなどとは考えられないと批判され、急いで作業しますというほかありませんでした。
このように異常きわまりない経緯で、宿泊税導入が急浮上してきました。
器が小さすぎる知事
私ども県議団に漏れ伝わってきた情報に寄ると、ある宿泊事業者らとの面談の際に、「知事の職をかける覚悟で取り組む」とまで言い切ったと言われます。これが本当の発言だとすれば、知事の器が小さすぎます。県民が反対だと言っているものを意地を張ってやることが「知事の使命」だと考えているとすれば、もう怒りと悲しみしか湧きません。もっとやることがあるだろうと言いたいです。岩手県の達増知事のように、子ども医療費を就学前から中学校卒業まで無料を拡大するとか、被災者の医療費免除、そして住宅再建への県の独自支援、台風・豪雨での浸水被害者への県独自支援など、腹を決めてやれば、みんなが幸せになれる施策がいろいろあるはずです。こんな宿泊税なんかに知事の職をかけて欲しいなどとは、県民だれ一人思っていません。本当に、困った知事です。
実は「宿泊税ありき」で進められた真相
知事がごり押ししたと見られたくないから、一応体裁は平成30年7月に観光振興財源検討会議条例が施行され、その年の10月に第1回の検討会議が開催され、そこで自発的に検討されてきたという体裁がとられています。
私たち県議団は、この条例制定のはじめから、財源検討のプロ集団は県自身であり、第三者に検討してもらうという体裁自体がおかしいこと、これは宿泊税を導入したくても、すでに宮城県は「発展税」と「環境税」という法定外目的税を実施しており、県がその上に提起をおこなうことは論外と思われることを避けるために、第三者機関をたちあげて検討してもらう体裁をとったに過ぎません。
だから、私たちが真のねらいは宿泊税ではと言うと、部長も課長も、そして知事さえも宿泊税ありきではないと強調する始末でした。しかし、その化けの皮はすぐにはがれました。平成30年10月に開催された検討会議の会長人事で、あろうことか宿泊税導入の道先案内人とも言うべき人物を会長にすえたのです。
田中治(同志社大学法学部教授)会長は、「今回の宮城県の観光振興のための財源を考えるこういう会議の委員として、またはそのまとめの会長として仕事をせよとおおせつかったのは、おそらくこの種の観光振興財源等について、いくつかの地方団体がいろんな先進的取り組みを進めている、そういう時に、たまたまと言いますか、関係させていただくことがあって、例えば大阪府とか京都市、そういうところで、多少なりとも経験があるということで、少し経験を還元できればということで、そういうご趣旨で依頼があったと私は理解しております」(就任あいさつ)
この大阪府、京都市での宿泊税という新税導入の実績をかわれ、期待され委員になったという発言は、福岡市の「第1回宿泊税に関する調査検討委員会」(2018年10月3日の発言)などでも同様の言い方をしています。田中治氏と宿泊税導入の関わりは、宿泊税導入を答申した「大阪府観光客受入環境整備の推進に関する調査検討会議」の委員7人のうちの一人。京都市の宿泊税導入を推進した有識者の検討委員会(委員長・田中治同志社大学教授、9人)の責任者。宿泊税導入に向けて福岡市が設置している調査検討委員会の委員長が田中治氏。NHKの取材に田中氏は「宿泊税の負担のあり方などについて議論が深まり、一定の合意が得られたと考えている。原案をもとに市民の意見を聞き、場合によっては修正していきたい」と話しています。
このように県外から、宿泊税の道先案内人を連れてきて、会長の座に据えたことが、宮城県がこの検討会議から宿泊税導入の答申をもらいうける狡猾な段取りがとられていた証左です。まったくひどい経緯です。
なぜ復興道半ばの宮城県が日本一高い宿泊税なのか
我が国における宿泊税の導入経過を簡単にながめておきます。1940年に遊興飲食税が新設、その後料理飲食等消費税、特別消費税などと名前を変えたが、消費税との二重課税になるとの理由で1999年度に廃止されました。
東京都が石原都政のもとで、2002年4月公布、同年10月実施で「東京都宿泊税条例」を新設。これは宿泊者の増加にともない必要となるインフラ整備の負担を求めるところに当時の石原知事の真意があったようです。
東京都以降長らく新設は無かったが、大阪府が2018年4月から宿泊税を導入したことから、導入ラッシュがはじまりました。京都市が2018年10月実施、金沢市が2019年4月実施と続き、福岡県や福岡市が導入。北海道の倶知安町が2019年11月実施と、相次いでいますが、奈良市や沖縄県のように、最近の新型ウイルスの感染拡大なども考慮し、実施を当面延期する自治体も出ています。
課税内容はそれぞれですが、庶民が普通の感覚で選ぶ場合は、ビジネスホテルの場合は、7000円前後でしょうか、1泊2食付きの旅館の場合は1万円前後からではないでしょうか。2万円以上というのは、高額宿泊料というイメージが大きいと思います。
そこで仮に1万円の宿泊料金と仮定した場合ですが、東京都は1万円以下は免税、1万円から1万4999円が100円(1万5000円以上は200円)。大阪府は7000円から1万4999円までは100円(1万5000円から1万9999円が200円、2万円以上が300円)です。京都は2万円未満が200円(2万~4万9999円が500円、5万円以上が1000円)、金沢市は2万円未満が200円(2万円以上は500円)、福岡の場合は、福岡市に宿泊すれば、福岡市に150円、福岡県に50円払うことになり計200円、北九州市は一律150円、北海道の倶知安町の場合は宿泊料金の2%が基準なので、1万円の場合はちょうど200円となります。宮城のように1万円で300円をとるところはありません。異常に高い宿泊税を設計したのが宮城県です。
しかも京都などの場合は、修学旅行生は免税です。しかし宮城県は3000円以上から一律300円をとるとしています。3000円以下で宿泊しているところは、障害者向けのセンターや自然の家などの主に教育福祉施設関係です。これがだいたい3%ということですから、宮城県は宿泊した97%から宿泊税をとる仕組みを導入しようとしています。これも無茶苦茶なやり方です。
例えば、中高生などは競技大会などの試合で宿泊する場合に、勝てば連泊を余儀なくされますが、そうすればするほど1泊300円の宿泊税がとられるというむごい仕組みです。こんな無慈悲なやり方が通用するのでしょうか。
度量にあわせた観光施策で何が悪いのか
知事らは口をひらけば観光財源がなくなると危機感を訴え、人口減少社会という日本の構造的なゆがみを問題にしますが、これらは宮城県だけのことではありません。
最近、「身の丈」という表現は評判が悪いようなので、あえて「度量」と使いますが、自らの度量に合わせた観光施策を展開すれば良いのです。
これは党県議団が現在資料請求している最中ですが、一体この間にどんな観光施策を実施してきたのか、その有効性をどう検証しているのかなどについて精査しなければなりません。私どもに寄せられている情報では、震災後に急に予算規模が膨らみ、予算を持て余してきた経過があるようです。あの壇蜜さん出演の観光PR動画がなぜ出現したのか、ある方は、予算消化の中でモラル喪失状態になり、必要なチェックも弱まった中で起きた事件と指摘しています。一方で、各種PRから仙台市が抜け落ちていることへの批判も聞かれます。観光施策として、どんな課題と対策が必要なのか、問題は財源よりもその中身です。そこをあいまいにしたまま、抽象的な言辞を列挙するだけの、そして何を方便で考えたのか、いまさら地域ごとの独自施策などと知事が言い出し、結局宿泊税を導入し、何をやるかは地域ごとにこれから具体化では、これもあまりにもひどすぎます。
「みやぎおかみ会」の怒りと悲しみ
「おかみ会」の一人、秋保の緑水亭の若女将のブログが反響を呼んでいます。村井知事さんと二人三脚で観光施策に協力し、知事を信じ切ってきた「おかみ会」(現在37施設参加)は怒りと悲しみでいっぱいと聞きます。あれほど村井知事とは独特の強い絆で結ばれてきたと思ってきたのに、ここにきて完全に裏切られた思いのようです。
こういう方々を泣かせ、怒らせる知事とは何なんでしょう。県民が反対する施策を押し通すことに、自分の存在価値を見いだしているのでしょうか。もしこの宿泊税が、宮城県の交流人口を減少させ、宿泊事業をばたばた倒産に追い込み、全国・全世界から宮城県だけには行きたくないという、風評被害を含めた逆流が生じた場合にどういう責任をとるつもりなのか、5年後に見直せば良いというかもしれませんが、もうその時には遅いのです。
しかも、いまあたかも日本中が新型コロナウイルスで大騒ぎになっている時に、また日韓関係の悪化や中国人旅行者の激減などで、観光大不況が到来するかもしれないと多くの方々が心配と不安を抱いている時に、まさにこんな時に、お客さまを追い払う宿泊税を平然と持ち出すとは、何を考えているのかとあ然とするばかりです。多くの県民が宮城県の無茶な提案となりゆきを注視しています。
ところが、ところがです。最近の知事の言動を聞いていると、人口減少社会に対応して交流人口を増やし、宿泊者をよびこまないと、宿泊事業者は次々とつぶれざるをえなくなり、それを回避するためには宿泊税を何としても導入しなければならないと、宿泊税をあたかも「救済の要」のように強調しています。冷静に考えれば、宿泊税がお客さまをよびこむどころか、追い払う税となることは、火を見るより明らかです。全く逆の知事の認識に愕然とせざるを得ません。
本当に、経緯や内容を見ると、この宿泊税は県政史上最悪の愚策中の愚策です。私たちは全力でその阻止のためにたたかいますが、もし県議会の多数与党である自民党県民会議(33人)、公明党県議団(4人)、21世紀クラブ(1人)ですから、定数59の県議会で数の上では多数でごり押し可能な状況です(その後、自民党は原案のままでは会派をまとめきれないとして、知事に修正の要望書を提出。しかし、知事は原案をいっさい変えないゼロ回答。自民党の動向が注目されています)。声なき声をたくさん集め、この悪税に拙速に賛成しない議員をどれだけつくれるか、県民は本当に大事な局面にいま立たされています。(文責・事務局・齋藤)